すらすら経済学を学ぶ日記。

会計・税務の実務家が経済学をすらすら学ぶ日記。

一橋大学公開講座「『教養としての経済学』もう一歩先へ─生き抜く力を培うために」開催。

齊藤誠教授ら、そうそうたるメンバーによる公開講座が開催されるようです。

詳しくはこちらのリンクを。

「『教養としての経済学』もう一歩先へ─生き抜く力を培うために」

4月26日(土)から土曜日、全6回ですね。
無料ではなく、全6回分で全部で6,200円ですが、この講師陣なら安過ぎる値段ではないかと。
私も東京近郊に住んでいれば聞きに行きたいところなのですが...orz


100名程度しか入れないようなので、すぐに申し込みましょう!

教養としての経済学 -- 生き抜く力を培うために

教養としての経済学 -- 生き抜く力を培うために

聞きに行けない方は、ぜひこちらをw

インボイスは魔法の杖か?

こちらのtweetの意味合いを少々解説いたします。


日本の消費税法は、欧州諸国などで広く行われてる付加価値税(VAT)と同様、製造-卸売-小売と財が流通していく中で、売上で受領した税額からその前段階の仕入税額を控除し、その差額だけを納付するという仕組になっています。
この差額が付加価値とよばれるものであるため、付加価値税とも総称されるわけです。

付加価値税は広く行われており、主要国でこの仕組みの税が無いのは米国のみであります。
なかでも、先進国クラブともいわれるOECD諸国で実施されている付加価値税について、日本以外の国は前述の前段階税額控除に際し、インボイス(税額票)を利用しています。
インボイスがなければ前段階税額控除が行えません。これが付加価値税が取引を連鎖させることによって脱税を防止する仕組になっているとも言われるゆえんです。

そして、インボイスを発行できるのは納税義務がある事業者(個人事業者・法人)のみであり、これは税務当局への登録が義務付けられ、インボイスにはその登録番号の記載が義務付けらたりもしております。
インボイス制度の場合、一般の消費者や、零細な免税事業者はそもそもインボイスを発行することができません。つまり、一般消費者や免税事業者から仕入れた場合は、前段階の税額控除を行うことができないわけです。


これに対し、日本は同様の前段階税額控除の仕組みを取りながら、税務当局への登録義務も無く、そもそもインボイスは不要で、「帳簿及び請求書」を保存することで税額控除が可能となります。
そして、インボイス制度との最大の相違点は、相手が一般消費者や免税事業者であっても税額控除ができることです。
これは、実際には支払っていない仕入税額を控除できることで、国庫税収の脱落をもたらしますが、消費税導入への激しい国民の反対をやわらげるために考え出され日本独特の制度であります。*1


インボイス制度は、これを通じた税務当局による所得の正確な把握をおそれた自営業者から激しい反発を受けました。
昨今、食料品への軽減税率導入や、脱税防止のためにインボイス制度が再び議論の俎上に上がっています。
インボイス制度が導入された場合、課税売上高1,000万円未満の免税事業者はインボイスを発行できないために取引から排除されてしまうおそれがあります。
前述の税収の脱漏と、この免税事業者の取引排除、こちらを比較考量した論考は見かけません。


税法は、国民経済についての正確な資料に基づいて審議されなければならない、と聞きます。
とかく消費税は感情的な議論に落ち込みがちですが、事実に基づいた正確な審議を望みたいと思います。

竹下首相(当時)が消費税導入までの経緯をまとめさせた貴重な資料はこちら。

消費税制度成立の沿革

消費税制度成立の沿革

*1:中曽根内閣で法案提出された「売上税」はインボイス方式でした。なお、大平内閣の「一般消費税」は帳簿方式。

経済学の知見を、すぐには役に立てることは難しいかもしれないけど・・

本日のお題はこちら。

マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学 (ちくま新書)

マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学 (ちくま新書)

価格によって財・サービスの評価が定まり、効率的に配分されていくという市場の機能は優れたものですが、情報の非対称性・外部性の存在・公共財など、うまくいかないことも多々あります。
市場の失敗といわれるものですが、これは「市場は万能であるが、たまたま失敗した」ということを指しているわけではありません。


本書では、腎臓移植や男女の結婚のマッチングなど、必ずしも金銭による価格付けが馴染まない「市場」において、経済学の知見がどう「役に立っているのか」、易しく紹介しております。
また、価格付けでも一般に定価があらかじめ示せない分野における競争方法として、オークションについても詳しく説明されております。


このような「市場の仕組みをデザインする」手法は、米国では腎臓移植マッチングや研修医の最適な配属、周波数オークションなどに幅広く応用されているそうです。
しかし、日本では政府(政治家や官僚)による直接規制や業界団体の強い圧力の存在のため、腎臓移植マッチングは「必要無い」とされたり、周波数は政府による裁量的な割り当てによるなど、ほぼ実施されてないとも。


市場は決して万能ではなく、経済学も同様に万能ではありませんが、このような「すぐに役に立つ」知恵もあります。
昨今の指令経済的発想の政策連発をみるに、米国のような実社会への応用は難しいかもしれません。


それでも、このような知見が学問の世界で明らかにされているのは興味深いことです。
市民一人一人へ、経済学の知恵が普及することを望みます。

貸倒引当金繰入の無税規定は銀行経営者のインセンティブに影響するか?

またまたレポート(一部ですが)を晒しておこうと思います。


貸倒引当金の税務上の取扱いは、納税という現金流出の有無に影響する。財務会計において「税効果会計」という会計基準があり、税務上の取扱いが有税扱い(損金にならない)でも無税扱い(損金になる)であるかにかかわらず、当期純利益が同一になるという仕組になっており、経営者のインセンティブには影響が無いようにも考えられる。これをモデル図で示すと、下記のようになる。

科目 イ貸倒引当金が有税の場合 ロ貸倒引当金が無税の場合
経常収益① 100,000 100,000
経常費用② 70,000 70,000
うち貸倒引当金繰入 20,000 20,000
税引前利益③=①-② 30,000 30,000
(課税所得) 50,000 30,000
法人税等(現金流出)④ 20,000 12,000
法人税等調整額 △8,000
法人税等合計⑥=④+⑤ 12,000 12,000
当期純利益⑦=③-⑥ 18,000 18,000

法人税率は40%とする。

 モデル図によると、貸倒引当金繰入が有税処理の場合でも、税効果会計適用により「法人税等調整額△8,000」が計上され、当期純利益は無税の場合と同額の18,000となる。仕訳は下記の通り
(借方)繰延税金資産 8,000/(貸方)法人税等調整額 8,000

銀行経営者のインセンティブが株主から要求される利益水準を確保し、自らの地位の継続であると仮定すると結果(当期純利益)が同一である以上、貸倒引当金の有税扱い・無税扱いはインセンティブには影響を与えないようにも思われる。しかし、有税扱いの場合は現金流出(納税)が8,000増加するので、貸倒引当金繰入の翌会計年度では運用できる資産が8,000減少するため、期待される運用益がその分、減少することになってしまう。
総資産のうち、8,000という繰延税金資産は運用益をなんら生まない会計上の資産であり、換金することもできないためである。
 次の会計年度に貸倒が実際に発生し、有税扱いであった貸倒引当金が使用され、損金に算入された場合をモデル図で示す。

科目 イ貸倒引当金が有税の場合 ロ貸倒引当金が無税の場合
経常収益① 100,000 100,000
経常費用② 50,000 50,000
(貸倒損失 (20,000) (20,000)
税引前利益③=①-② 50,000 50,000
(課税所得) 30,000 50,000
法人税等(現金流出)④ 12,000 20,000
法人税等調整額⑤ 8,000
法人税等合計⑥=④+⑤ 20,000 20,000
当期純利益⑦=③-⑥ 30,000 30,000

※貸倒損失は貸倒引当金戻入と相殺されるため、損益計算書には影響を与えない。

この場合も、税効果会計の仕組みにより、当期純利益は同額となる。仕訳は下記の通り。

(借方)法人税等調整額8,000/(貸方)繰延税金資産 8,000

 有税か無税かの違いは、一会計年度の間だけ8,000の繰延税金資産が計上され、運用機会を逸するということだけである。
しかし、実際には、貸倒引当金は貸出残高がある限り継続して計上されるので、有税扱いの貸倒引当金残高がある限り繰延税金資産は取り崩されることが無く、継続して運用機会の喪失が生じる。日本の法人税法の貸倒引当金損金算入要件は非常に狭い範囲しかないため、多額の有税引当残高が継続して残存する。
ただし、長らくゼロ金利常態化している日本において、繰延税金資産計上による運用機会の喪失額はわずかであり、銀行経営者のインセンティブに影響を与え、貸倒引当金繰入をためらわせているとは考えにくい。諸外国ではそれぞれ税制が異なるし、繰延税金資産の計上要因は貸倒引当金だけではないため、国際比較は難しい。スペインのケースでは、統計的引当金以外の発生損失モデルの貸倒引当金はすべて無税扱いであり、統計的引当金以外の貸倒引当金繰入による運用機会の喪失は無かったものと考えられる。スペインも低金利下であったものの、銀行経営者のインセンティブには「良い影響」(危機に備えられるという意味で)があったとも考えられる。


参考文献はこの辺り。

金融危機とプルーデンス政策

金融危機とプルーデンス政策

完全比較 国際会計基準と日本基準

完全比較 国際会計基準と日本基準

国債残高はどのように膨張してきたか?

本日のお題はこちら。

国債膨張の戦後史―1947-2013現場からの証言

国債膨張の戦後史―1947-2013現場からの証言

国債には、税収では賄いきれない歳出(公共支出)をファイナンスするための財政的側面と、発行と引受、そして金融商品として流通していく金融的側面の二つがあります。


本書は、大蔵省で長年、国債に関わる実務に携わった著者が、戦後の均衡財政主義時代から昭和40年度初めての建設国債発行、昭和50年度の赤字国債発行、そしてバブル経済による一時的な赤字国債発行無しの時代を経て、バブル崩壊後のなんでもありの財政支出による国債残高累増の歴史をその内幕も含め、コンパクトに整理したものであります。


著者の実務から、やはり国債の財政的側面に関する記述が多いのです。
戦後すぐは国債発行=軍事費(防衛費)充当というイメージが国民の間に強く、政治家や官僚が気を使ったこと。


シンジケート団時代の銀行・証券会社との折衝や、政治家、大蔵官僚などの決断、債券先物の標準者がなぜ6%に決まったのかなど、興味深いエピソードがいろいろ読めます。


本書の冒頭に、大量の国債を円滑に消化するために大蔵省(財務省)の官僚機構が懸命に制度を整備したために、あまりに上手くいってしまっていることが財政規律がゆるむことにつながるという皮肉を嘆いております。


著者によれば、現状は国家財政の持続可能性としては既に破綻状態ではあるが、市場はまだそうは見てはいないとも、と。


国債の金融的側面に関しては、同じくきんざいのこちらが詳しいです。

国債のすべて―その実像と最新ALMによるリスクマネジメント

国債のすべて―その実像と最新ALMによるリスクマネジメント


国債をめぐる問題は、財政的側面・金融的側面に限っても、あまりに複雑で全貌を把握するのは難しいですが、この2冊で大まかな事実関係は把握できるかと思います。


この問題に関心を持つ方々にお勧めします。

ミクロ経済学へ第一歩を踏み入れるために・・

自分自身、あちこちにブログを開設しては低レベルなことを書き散らかしているので壮大な自爆といいますかブーメランなんですが・・


わかりやすい基礎テキストは大切です。


経済学を勉強し始めた頃、「限界」とか「効用」など用語の意味がなかなか理解できず、また、「書かれていない前提・仮定」に苦しんだ経験から、こちらはたいへんわかりやすく丁寧に説明してくれており、これは学部1年生や、学び直しの社会人にふさわしい入門書だな、と。
最初にこの1冊に当たっていれば、回り道も短くて済んだかもかも、とまで思わせてくれました。

ミクロ経済学の第一歩 (有斐閣ストゥディア)

ミクロ経済学の第一歩 (有斐閣ストゥディア)


時間がある年末年始に読みたい経済学入門テキストとしてお勧めしたい1冊ですね。

独習者のためのおすすめ経済学入門テキスト。

ミクロ経済学マクロ経済学の学部レベルのおすすめの教科書を教えてください。」


えー、Ask.fmでご質問が来ましたので、経済学徒のはしくれ(はじっこ)としていくつかお勧めの本をあげたいと思います。
私は学部では経済学をやっておらず、入門書はいろいろ独学して苦労しましたw
そこで初心者が読みやすいのをいくつか。

追記:2015年版・kindle版として更新しております。
sura-taro.hatenadiary.jp



①導入編

教養としての経済学 -- 生き抜く力を培うために

教養としての経済学 -- 生き抜く力を培うために

一橋大学の教授陣による経済学ガイド。経済学部へ進みたい高校生へ向けてという意図もあるようですが、社会人で独学で学ぼうという方にもお勧めです。
最近の経済学のトピック解説と、進んだ学習のための読書案内が各章にまとめられております。
モチベーションUPにつながりますので、今も折に触れて読み返しております。


②入門編
「入門」「基礎」というタイトルの経済学テキストは多数あるのですが、ここは伊藤先生の「入門経済学 第3版」を。1冊でミクロ・マクロ両方学べます。400ページくらいありますが、読みやすいのでサクサクいけます。

入門経済学

入門経済学


③ミクロ編・入門
マンキュー、スティグリッツクルーグマンなど米国の分厚い入門書はいくつかでていますが、私はマンキューを選択しました。この辺は好みなのでどれか1冊を。通読するには時間がかかりますが、時々、「引っ掛かる点」を読み返す感じで参照しています。

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

八田達夫先生のミクロ経済学Ⅰ・Ⅱもいいです。ただし、文章とグラフによる説明が中心で、数式はほとんど出てこないので「もやもや感」が残ります。
この「もやもや感」を感じるようになれば、入門者から初学者くらいにレベルアップした証拠かもしれませんw


④ミクロ編・基礎
入門編を過ぎましたら、基礎編へ。
荒井先生の「ファンダメンタル・ミクロ経済学」をおすすめします。

ファンダメンタル ミクロ経済学

ファンダメンタル ミクロ経済学

こちらにはほぼ同じ章立ての「ミクロ経済学理論」もあります。
こちらは中級編ですね。(今、ちびちび読んでいます)

ミクロ経済理論 第2版 (有斐閣アルマ)

ミクロ経済理論 第2版 (有斐閣アルマ)


⑤マクロ編
マクロはぜんぜん勉強していません!w

マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)

マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)

齋藤先生らのNLASマクロ経済学は本棚の飾りになっていいますので、そろそろ読み込みしませんとwこれは入門書とはいえませんので、勉強が進みましたらまた紹介します。
(ちょっとだけ読みましたけど、まだぜんぜん理解不足です)


⑥公共経済学・財政学編
「経済学って、すごそう!」と思えたのがこちらです。なんだか一橋大学の教授陣が書いたものばかりですが、私は関係者ではありませんw

地方税改革の経済学

地方税改革の経済学

地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)

地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)

経済学の「考え方」「姿勢」を学べました。




たくさん紹介しましたが、他にもたくさんのテキストが出ています。数式中心、文章中心、グラフ図解中心などそれぞれ「クセ」がありますので、ご自身にあうものをいろいろ手を出して、理解できそうなのをどうぞ。
上記にあげたテキストが誰もが合うものではありません。どれもなかなか高いので、図書館でめくってみて、合いそうだ、と思ったのを購入してみる手順をおすすめします。