日本の消費税は効率性が高いか?
- 作者: 井手英策
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2012/10/17
- メディア: 単行本
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読み終わりました。読書ノート(書き抜きとそれに対する思考)を付ける前に、
明らかな誤りと考えられる記述がありましたので批判を書いておきます。
引用:「日本は(付加価値税の効率性である)C効率性が極めて高いのに対し、スウェーデンは税収の脱漏に苦しめられていることが知られている」
これは正しくありません。以下、かなり専門的な話になりますが・・
C効率性は分母の消費総支出に付加価値税(日本では消費税額)が含まれますが(つまり税込)VRR(VATrevenu ratio)では含まれていません。OECDの統計でも2011年調査からVRRを使用しております。C効率性は一段前の指標であり、新しいVRRを使用すべきではないかと考えられますが、ここではC効率性を使用して議論を進めます。
C効率性は国内で生み出された付加価値に対し、標準税率を掛けて算出される理論上の税収値に対しどのくらいの効率性を持っているかの指標であり、理論通りであればC効率性は100となります。
C効率性=付加価値税収÷消費総額×標準税率
2006年OECD調査で日本の消費税のC効率性は65であるのに対し、英国46フランス45ドイツ50スウェーデン47であり、欧州付加価値税に比べて日本の消費税が「極めて効率性が高い付加価値税体系」であるとはいえません。
(ちなみにニュージーランドは96であり、ほぼ理論値どおりの税収をあげている)
C効率性が低下する原因は、軽減税率・非課税品目の存在、中小事業者に対する簡易課税制度や小規模免税点の存在、そして脱税である。日本の消費税は5%の標準税率のみで軽減税率は存在せず、非課税品目も限定されており、この点では効率的な付加価値税制度であると言えるが、簡易課税制度のラインは5,000万円、事業者免税点は1,000万円であり、欧州諸国と比較すると高いといえます。
脱税については、欧州では輸出免税(国境税調整)の悪用やインボイス(税額票)の偽造による脱税が深刻な事態になっております。日本でも輸出免税不正還付などが時に摘発されてたりしていますが、脱税率を公式に推計したデータは存在しないので、ここでは比較できません。
なお、インボイス(税額票)の存在は、直接的にはC効率性には関係しません
付加価値額の集計は国連の定めた国民経済計算のロジックに従っているはずので、世界共通です。
OECD諸国であれば統計にはそれなりに信頼できるはずですが、各国の付加価値税の課税対象は微妙に異なっております。
例えば、総消費支出に含まれていない住宅投資について、日本では消費税の課税対象(建物部分)ですが、ドイツでは対象外です。また、交際費支出について、日本では前段階税額控除が取れますが、フランスなどでは控除が取れません(納税額が多くなります)。
C効率性の算出にあたってはこのような細かな点が考慮されていないため、非常にざっくりした指標にならざるを得ません。
租税の専門家ではないとはいえ、このように少し調べればわかる事実を考慮しないで「日本の消費税は効率性が高い」ということを前提に論を進めるのはいかがなものかと考えられます。
とはいえ、興味ふかい指摘も多く、非常に面白く読めました。
書き抜きとそれに対する思考は次のエントリーで。