経済学の「考え方」をざっくり理解したいという方向けに。
本日はこちらをご紹介したいと思います。
ケンブリッジ式 経済学ユーザーズガイド―経済学の95%はただの常識にすぎない
- 作者: ハジュン・チャン
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2015/05/22
- メディア: Kindle版
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経済学を勉強したいというニーズは大きいと思われます。
あんまり更新しないこちらのブログにも「経済学 入門書」とかの検索ワードで(細々とながら)アクセスがあるようですので。
とはいいましても、需要と供給の均衡するグラフから始まって、「限界効用」でつまづいて、ギリシャ文字の数式が出てきてあぼーん・・という方は多いのではないでしょうか。
本書は、経済学という学問の始まりから、新古典派、ケインズ学派、マルクス経済学、オーストリア学派、制度学派などいろいろな経済学派の学説の整理、弱点などを解説したり。
生産の理論から金融、格差と貧困、失業の問題から、国際貿易まで。
経済学という「ツール」を使ってどんな問題を考えることができるのかという「考え方」を理解することができます。
あとは、興味の出てきた分野へそれぞれの入門書・基本書を読んでいくことで経済学の学習が進んでいけるのかと思います。
子どもの頃にディズニー映画自分を信じれば夢はかなうと吹き込まれることから始まり、成功は自分次第だとメッセージに繰り返し晒される。
そのメッセージには貧困は努力が足りないからという考えが含まれている
— すらたろう (@sura_taro) 2015, 12月 6
このようなハッとさせられる視点もいろいろあります。
経済学をざっくりでも理解したい方に、軽い読み物として楽しく読めます。
いまさら経済学部へ再入学はできないけど。(その2)
さて、その2です。
昨日のその1の「基礎300題」はいわば一問一答式でして、体系的な教科書の代わりにはならないと思われます。
独習で経済学を学ぶにしてもやはり基本書は1冊欲しいところ。
私もいろいろな経済学テキストに手を出しては、さっぱり理解できなくて投げ出したりすることを繰り返してきました。
自分にしっくりくるテキストというのはこういう試行錯誤を繰り返さないとなかなか選べないものですが・・それでは時間が無い社会人に酷というものですね。
どれか1冊だけ選べ、と言われましたら、定番ですがやはりマンキューを推薦したいと思います。
- 作者: N.グレゴリーマンキュー,N.Gregory Mankiw,足立英之,石川城太,小川英治,地主敏樹,中馬宏之
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: 単行本
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マンキューは「ミクロ」「マクロ」と分かれているものもありますが、この「入門」は両者から抜粋して編集されたもので、1冊で両方学べます。
貿易の問題や租税の経済効果の話も出てきますので、国際経済学、公共経済学のさわりも触れられていますね。
また、この第2版ではリーマンショックに象徴される金融危機の問題もさらっとですが記述されており、現実の経済にも対応。
分厚い本ですが、説明が丁寧なのでサクサク読めるのが特徴です。
社会人の皆さんも、経済学を学ぶならネットに氾濫する怪しい言説に惑わされずマンキューを繰り返し読みましょう
— すらたろう (@sura_taro) 2015, 9月 16
と、褒め殺し状態ですが、一つだけ何点を言いますとやはり米国の教科書なので実例が米国の話が中心で馴染みにくいということでしょうか。*1
「1ガロンのガソリンが」と言われてもピンとこないですよね。
学部1年生向けで、日本で書かれたおすすめ入門テキストはやはりこれでしょうか。
- 作者: 伊藤元重
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2015/05/14
- メディア: Kindle版
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マンキューのは残念ながらkindle版がないので分厚くて困るのですが、伊藤先生のはkindle化されていますので手軽です。
もう少し電子版は安くしてくれればいいのですが・・
*1:訳者により日本の経済データが補足されている部分もあります。
いまさら経済学部へ再入学できないけど。(その1)
社会人になって、仕事を進めるうえ、あるいは何か議論する前提として、初歩的な経済学の知識がないために困った経験がある方は多いのではないでしょうか。
私もそうでした。
これはいかん!ということで、アマゾンやら町の書店に駆け込んで「経済学入門」や「これだけでわかる経済」みたいな本を探してみても、山のような類書のなかでどれを選んだらいいやらわからない・・
その時、堂々と腕組みをした自信満々な著者近影が目立つ表紙にひかれて、間違った「俺だけが教える世界経済の真実」みたいな本を掴んでしまったら、それは別の世界へ迷い込むことになりかねません。
そこで、ご紹介したいのはこちら。
名古屋学院大学 「経済学部生のための基礎知識300題」
名古屋学院大学が、新入学の経済学部生向けに編集した「経済学部生のための基礎知識300題」です。
PDFで誰でも無料ダウンロードできます。
ミクロ・マクロから始まりまして、金融・財政、国際経済学、また、経済学を学ぶ上で基礎となるデータ処理や数学、経済学に関する英語の基礎までまとめられています。
名古屋に所在する大学ですので、愛知県の地元の産業の話とか、名古屋の区の名前を記入する問題とかローカルネタもあります。*1
高校で学ぶ「政治・経済」を一歩進めたくらいのかんたんさです。
何事も初歩からですので、経済学部出身じゃない方はこの辺から始めてみては。
続きます。(その2はこちら)sura-taro.hatenadiary.jp
追記:大学のお名前を間違えているというご指摘がありましたので、訂正しました。感謝。
独習者のためのkindle版で学べる経済学入門。
過去ログのこちらですが・・
独習者のためのおすすめ経済学入門テキスト。 - すらすら経済学を学ぶ日記。
だいぶ古くなりましたので更新したいと思います。
当時は経済学テキストのkindle版ってほとんどなかったのですが、最近、ずいぶん電子化が進んでいるようです。
実は、経済学のテキストは本棚に入りきらなくなってしまって、図書館にもあるものはだいぶ処分してしまいました。
kindle版ですとかさばらないのでいくらでも積むことができそうですw
①導入編。
何かと毀誉褒貶の激しい副総裁氏ですが、教科書執筆者としてはなかなか優れているものを書かれているのではないかと思います。
現実政策についての意見は含まれません。スタンダードな入門書。
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/09/20
- メディア: Kindle版
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伊藤元重教授の「入門経済学」。学部1年生の教科書としてよく指定されています。
ミクロとマクロが同時に学べるテキストで、初学者でも読みやすいと思われます。
- 作者: 伊藤元重
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2015/05/14
- メディア: Kindle版
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②ミクロ入門編。
ミクロ経済学?<プログレッシブ経済学シリーズ>―市場の失敗と政府の失敗への対策
ミクロ経済学?<プログレッシブ経済学シリーズ>―効率化と格差是正
Ⅰ・Ⅱ巻に分かれている八田教授のミクロ経済学もkindle化されました。これは数式によらず、文章とグラフで説明しようとしているのでやはりボリュームが増えてしまうためかも。
これはとても読み切れない、という方でしたら、圧縮版のExpresswayが出ています。
- 作者: 八田達夫
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/01/31
- メディア: Kindle版
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残念ながら齊藤誠教授らの「NLASマクロ経済学」はkindle化されておりませんので、続いては金融編へ。
③金融編。
池尾和人教授のこれらをお勧めしたく。*1
- 作者: 池尾和人
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/02/07
- メディア: Kindle版
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私の目標はこれの内容をなにも見ないですらすら説明できるようになりたいところです。*2
時事的なこちらもkindle化されています。紙の本の値段の半分ですね。
- 作者: 池尾和人
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/04/16
- メディア: Kindle版
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これらはあくまで、社会人が趣味・教養レベルで学ぶレベルの「経済学」ですので、気軽に読んでみたらいかがでしょうか。
読書ノート 持田信樹「財政学」その1。
散逸しないように保全。
- 作者: 持田信樹
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2009/10/22
- メディア: 単行本
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政府支出の「有用性」の検証。政府支出の増大により乳児死亡率・平均寿命・教育機会の拡大・低所得層の底上げなどの効果があったのか、イタリアの財政学者タンツィが実証データにより推計
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
1870年代から第一次世界大戦までは政府のスタンスは「自由放任」であり、社会厚生の改善はみられない
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
第一次世界大戦から1937年まで。「大きな政府」の出現。乳児死亡率・平均寿命・進学率などは顕著に改善
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
第二次世界大戦後から1960年代まで。政府支出が増大すればするほど社会的指標は改善され、厚生水準は改善
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
1960年代以降。政府支出は増大し続けたにもかかわらず、社会厚生の改善速度はスローダウン
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
財政支出の規模のみに着目すれば、大きな政府(政府支出のGDP比が50%以上)は「小さな政府」をはるかに凌駕する生活の質を国民に提供しているように見える。しかし・・
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
①経済・労働市場のパフォーマンスと政府の財政規模には負の相関がある。これは大きな政府の規制のきつさが影響している?
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
②医療・教育の成果に関しては大きな政府と小さな政府の国々はよく似ている。なお、国連が公表している「人間開発指数」では小さな政府の国々の方が生活の質が良い
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
③環境保護は大きな政府が優位。
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
④所得再分配について。大きな政府による移転支出の大きさは小さな政府の2倍以上だが、それぞれの所得分配の違い(不平等の改善具合)はそれほどでもない
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
大きな政府による巨額の移転支出は「本当に困っている低所得者」に限定されているのではなく、政治的支持を繋ぎとめる為に中間層にまで実施されている可能性。このため、それほど格差が解消しない
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
⑤政府の効率性。小さな政府の優位。官僚的形式主義の横行、司法制度への信頼性などは大きな政府の国々は劣る。法の支配が信頼できない場合、地下経済が増大
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 26
日本では税制を通じた格差是正が効いていない。ジニ係数の税制のよる改善は5%程度しかなかったのが所得税率のフラット化などで3%程度まで低下
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 27
一方、社会保障給付によるジニ係数の改善はけっこう効果があり、2005年データでは24%程度不平等を改善している。しかし、社会保障給付が著しく高齢者給付に偏った制度であるため、勤労世代の格差是正には効果がほとんど無い
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 27
軽減税率とか唱えている方は、この辺は意図的に無視しているような。
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 27
所得税の累進性の復活は、実際には一部の稼ぐ給与所得者への狙い撃ち課税となり、中小企業オーナー層は軽く租税回避しそうな予感(ポジショントーク
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 4月 27
財政に関する議論の前提となる共通の基礎を共有するためには・・
本日のお題はこちら。
消費増税は本当に必要なのか??借金と歳出のムダから考える日本財政? (光文社新書)
- 作者: 上村敏之
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/12/13
- メディア: Kindle版
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関西学院大学の上村敏之教授の手になる、今日の財政状態に関する書です。
タイトルとは異なり、消費増税の是非といったテーマだけではなく、財政の持続可能性・歳出の無駄は本当にあるのか、そしてなぜ財政が必要なのか、という広いテーマに関する基礎的な考え方を解説しております。
特定の経済政策を「こうあるべきだ」として規範的に主張することはありません。
もちろん、社会の安定のために「財政」(公共の役割)が必要であるという立場にはあります。
その前段として、税制における公平(垂直的公平や水平的公平)と効率、プライマリーバランスとは、GDPと政府債務の比率の関係、一般会計だけではなく社会保障特別会計など、財政を考える上で共通の基礎となる考え方を易しく解説しております。
ちまたにあふれる議論では、このような共通の基礎の理解が無いままに、同じ言葉を違う定義で使ってひたすら混乱している場面が多いように思われます。
財政が無くなれば社会の安定は維持できません。
持続可能な制度を作っていくために、何をどうしていけばいいか、議論の基礎として押さえておきたい知識を提供してくれる一冊です。
みんなが財政危機の原因を少しづつ作っています。
本日のお題はこちら。
- 作者: 鈴木亘
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/09/16
- メディア: 新書
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2010年、菅総理(当時)「強い社会保障」を唱えた頃に書かれた財政と社会保障についての書です。
経済学の基礎的な考え方を使っていますが、一般向けに書かれた新書ですので、ところどころ単純化なども見られますが、説明のわかりやすさを優先したのでしょう。
社会保障関係費(一般会計の3分の1)がどんどん拡大し、財政赤字がひろがっていく原因は、社会保障(年金・医療・介護・保育など)分野への政府の強力な価格規制と参入規制であり、保険料は公費(税金+赤字国債)投入によりきわめて低い水準に抑えられております。
そのため、本来、低所得者層のみへ限定すべき社会保障給付による所得再分配が、低い保険料と自己負担によって中所得者にまで行われている事実が厳しく指摘されています。
既得権を持った業界団体や天下りで癒着する官僚機構だけがこの原因ではなく、中所得者や、高所得者までも低い保険料や自己負担を享受し、それを維持しようとして改革に反対している事実は苦いものでした。
誰か他に責任を押し付けたい。
しかし、私自身も含め、原因はみんなにあるようです。
さて、本当の改革はできるのでしょうか。