すらすら経済学を学ぶ日記。

会計・税務の実務家が経済学をすらすら学ぶ日記。

金融市場における公共財とは?

金融市場における資金調達者と資金供給者との間には、
返済可能性や資金の本来の使途への充当・活用などについて、
典型的な「市場の失敗」である「情報の非対称性」が存在します。

情報の非対称性を解消するためには、
資金調達者・供給者は費用を負担しなければなりません。

銀行中心の相対型金融では当事者がその費用を
個別に負担します。
具体的には、資金調達者の財務諸表を読み取り、
現場に足を運んで経営者へヒアリングを行い
資金の返済可能性を見極める行為=審査や、
継続的に資金調達者=債務者をモニタリングする費用などが
考えられます。
調達者側での費用負担は資金調達時および
継続的な供給者への財務報告(月次試算表や資金繰り表など含む)
を行うことで費用を負担するわけです。

一方、市場型金融においては
同様の情報獲得活動は
優れた法環境と情報インフラという
公共財の提供を通じて行われるため
市場においてこれが自然に供給されることはありません。
あったとしても、フリーライド(ただ乗り)の誘因のため
公共財の供給は過少になります。

そこで、政府がその公共財を供給し、
市場参加者は集合的にその費用を負担することになります。*1
市場型金融を機能させるためには、
会計基準や情報開示制度なども整備し、
必要な専門人材を育成することも
合せて必要となります。
この費用も、市場参加者が負担しているわけです。*2

本日の参考文献はこちら。

日本の産業システム〈9〉金融サービス (日本の産業システム 9)

日本の産業システム〈9〉金融サービス (日本の産業システム 9)


池尾先生のこちらが入門用にはお勧めです。
現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

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おまけ。けいとくん(@keito_oz)との議論のまとめです。
http://togetter.com/li/530947

*1:日本においては金融商品の取引所は私企業ですが、電力会社同様、政府により独占的地位を与えられているとも考えられます。

*2:上場企業が負担している監査報酬や、会計基準開発を行っている財務会計基準機構への会費負担などが費用として挙げられます。

社会主義計画経済の不可能性について。

市場経済(完全競争市場)においては、
すべての家計と企業が財や生産要素の
市場価格を共通のシグナルとして取引を行い、
自らの効用や利潤を最大化します。

しかし、社会主義計画経済においては、
中央政府がすべての家計の効用に関する情報と、
すべての企業の生産技術に関する情報を収集し、
効率的な資源配分がなされるよう計画を立てなければなりません。

これが現実的に可能か、という論争が
ソビエト社会主義成立直後から始まりました。
オーストリアの経済学者ミーゼスは、
早くも1920年に社会主義計画経済の不可能性を論じています。
イタリアの経済学者バローネは可能と反論しましたが、
ハイエクは、計画経済を実施するためには
膨大な統計資料を集め、数百万の連立方程式
解かなければ計画経済は不可能であると断じました。

これが、社会主義経済計算論争です。
論争はソビエト内ではなく、資本主義国の経済学者の間で
行われたわけですが、その結果は、ご承知のとおりです。

社会主義経済が失敗したのは、
①政府が一手に情報を収集するには多大なコストを要すること。
しかも、企業側には正しい情報を政府に申告する
インセンティブが無いため、集められた情報は不正確なものでありました。*1

②労働者に適切な労働インセンティブを与えることに失敗したこと。
スターリン時代に超過ノルマを果たした労働者に
多く支払ったことなどもありましたが、
これは例外で働いても働かなくても給与は変わらず、平等でした。

社会主義はこのように失敗したわけですが、
冒頭で書きました「効用と利潤の最大化=社会的余剰の最大化」は
いくつかの仮定条件を満たした完全競争市場に限定されます。

今日の混合経済における政府の役割は、
市場の失敗の補完のはずです。

その手法と限界を、学んでいきます。

社会主義経済論争については、こちらより。

岩波 現代経済学事典

岩波 現代経済学事典


ご紹介いただきました。
ミーゼスの著作はkindleで読めます。
社会主義共和国における経済計算

社会主義共和国における経済計算

*1:正しい生産能力を申告するとノルマが増加したかもしれません。

独占企業をどう規制する?

完全競争市場では、消費者余剰と生産者余剰を合せた総余剰が
均衡での取引量において最大となる、とされます。

一方、巨額の初期投資と固定費用を要する
電力業のような費用逓減産業では
自然独占が生じるため、
政府は最初から地域独占を認めています。

独占企業の利潤最大化条件は
限界収入MR(X)=限界費用MC(X)となる生産量Xであり、
完全競争市場における均衡条件である
価格P=限界費用よりも過少となります。
独占での均衡では、完全競争市場での均衡に比べ、
生産量は小さく、価格は高く、消費者余剰は小さく、
そして生産者余剰は大きくなるため、
政府は資源配分の効率性を高めるため、
料金(価格)規制などの介入を行うのです。

その際、規制価格を定める方法は2つ考えられます。

①限界費用価格規制(first bestな方法)
政府が独占企業に対し、
需要と供給を一致させ、
かつ限界費用と等しくなるような価格を
設定することを強制します。

政府が善良で良心的であり、かつ
無限の能力を持った全知全能の存在ならば
最も効率的な資源配分を達成する
最善の価格規制を行うことが可能となります。

しかし、限界費用は現実には計算困難であり、
限界費用を計算して経営を行う企業は
存在しません。
また、限界費用価格規制が可能としても
平均費用が需要曲線の上に位置している場合は
企業は規制により赤字となりため、
租税による補填(補助金)という
新たな非効率性が発生してしまいます。

②平均費用価格規制(second best)
政府が独占企業に対し、
需要と供給を一致させ、
かつ平均費用と等しくなるような価格を
設定することを強制します。

これは現実に電力会社の総括原価方式として
実際に採用されています。

しかし、収支が一致するような価格規制は
費用削減のインセンティブが存在せず、
非効率な経営を行ってしまう可能性が高くなります。*1

このため、費用とは無関係に規制価格を決める方法や、
NTTの分割民営化や新規参入を認めるなどの
方法への転換などへも変化してきています。

電力産業は、新規参入が部分的に認められていますが
固定価格での買い取り義務付けなど
別の歪みも見受けられています。

これからを考えるために、
勉強を続けて行こうと思います。

本日の参考文献はこちら。

ミクロ経済学

ミクロ経済学


公共経済学入門 (経済学叢書Introductory)

公共経済学入門 (経済学叢書Introductory)

*1:現実の電力会社では過度な福利厚生や相談役などへの高給待遇などのレントが発生していました。

市場経済における政府の役割とは?

「市場に任せれば全てうまくいくんだ!」
ということだけを主張する、
市場原理主義者なる人物は実在しないと思われます。

今日の社会は市場経済を主としつつ、
「市場の失敗」に対応するために
政府の市場介入が求められています。

標準的なテキストによりますと、
政府(財政)の機能は下記の3つです。

①資源配分機能。
市場で私的財として供給されない、
国防・警察・消防など、公共財を提供するのが
政府の役割です。
これは、古くから「夜警国家」として
政府の最低限の役割として受け入れられてきています。

所得再分配機能。
市場経済は、完全競争市場であれば価格メカニズムに
導かれて最適な資源配分を実現する、とされています。
しかし、これは「効率性」だけの話であり、
市場から分配される市場参加者の所得は、
提供できる生産要素(労働・資本)の価値の
市場からの評価で決まります。
これは、生まれ持った能力や、親からの遺産、
病気や障害など本人の責によらない運不運で
結果に不公平が生じます。
このため、政府が所得の高い人から
一部を税として取り立て、
所得の低い人へ再分配することが
政府の役割とされてきました。

③経済安定化機能。
市場経済は、時に資源価格の急激な上昇、
世界的な金融システムの連鎖的危機波及など、
時にショックに襲われます。
こんな時、政府は財政支出や金融政策、
失業保険制度の整備運用などで
経済への影響を緩和させることが期待されています。

この3つの機能について、政府が担うことは、
ほぼ社会的に合意されていると思われます。

しかし、どの程度の役割を果たすべきなのか、
どの機能を重視すべきなのか、
どのような手段を用いてその機能を果たすのか。

今日まで、激しい論争が続いてきましたが、
自分自身でも、一市民として
それを考えるために、経済学を学んでいくつもりです。

純粋公共財の追加サービスの対価はあるのか?

自衛隊は、愛国者もけしからん人も売国政治家も、
日本に住んでいる方であれば等しく防衛します。

愛国者であれば、ちょびっと追加サービスがあったり、
売国政治家の家はミサイル防衛から外すなんてことはいたしません。
税金を払わないけしからん人も、高額納税者
まったく平等であるわけです。

自衛隊が提供する防衛という公共サービスは、
「純粋公共財」です。

純粋公共財の特徴は、
①消費の非競合性と、
②排除不可能性です。


①消費の非競合性とは・・
ある個人の消費が他人の消費する量を減らすことなく、
すなわち、競合することなく消費できる性質です。

自衛隊に守ってもらう国民が一人増えても、
いや、100万人増えても、日本国内にいる限り、
防衛サービスという公共財を等しく享受できます。


②排除不可能性とは・・
ある社会に属するいかなる経済主体も、
ひとたびその社会に供給された財・サービスの
利用から排除されない性質です。

売国発言を連発する政治家も、
脱税をやらかす、けしからん人も、
防衛サービスから排除されることはありません。
これは、排除するための費用が高すぎるためでもあります。
国籍不明の侵入機が爆弾を落とそうとした時、
売国政治家の家だけを防空サービスから外すなんてことは、
(道徳的/政治的理由ではなく)
費用がかかり過ぎて不可能であるためです。

自己責任論を連発していた方が、
純粋公共財である自衛隊に救出されたのを見て、
その費用を負担すべきではないか、との論を見かけました。

そこで、公共経済学ではどう考えるのだろうか、
とテキストをめくりましたが、
ヒントになるような考えは見つけられませんでした。

まだまだ勉強を始めたばかりなので、
うまくまとまりません。
公共の果たすべき役割とは何か、
追加的サービスを受けた場合の対価、というものは
はたして存在するのか。

課題が示されました。

いろいろ、考えていこうと思います。

経済学入門テキストいろいろ。(その2)

アマゾンのレビューによりますと、この本の著者が
スタンフォード大学で教えていたのはずいぶん、前のようです。
本文を読んでもそのことにはいっさい触れられていませんので、
レビューをした方はわざわざ調べたのでしょうか?

いずれにせよ、キャッチャーなタイトルを付けた出版社と、
監訳者の池上先生の勝ちということでよいのではないかと。

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編

ミクロ経済学の入門書といいますと、
限界効用から始まって、
無差別曲線がどうのこうので、
消費者理論~生産者理論がー、で
ようやく「現実的」な独占や寡占、
市場の失敗に行きつく前にヘトヘトに
なってしまうような本も多いです。

この本は、「限界」や「効用」など
経済学の専門用語(だけ)に頼ることなく、
また、数式は一切使用せずに
家賃の価格規制や最低賃金の問題、
独占や外部性、貧困・格差問題まで
広く解説しています。

池上先生のTV番組を思い起こさせる
「わかりやすさ」でした。
2時間もかからないで読めますので、
難しい本の合間の気分転換にどうぞ。

完全競争市場の前提と「市場の失敗」。

完全競争市場といわれる市場は、
4つの条件を満たしている必要があります。

①プライス・テイカー。
 消費者・企業などの経済主体は市場全体の規模に
 比較してじゅうぶんに小さく、プライス・テイカー
 (価格受容者)として行動する。

 各経済主体は価格受容者であり、自らの意思で
 値上げ/値下げをすることはできないという前提です。

②完全情報。
 取引の当事者は、取引される財の性質と価格について
 完全な情報を持っている。

 財(商品)の性能・品質について情報が完全であり、
 取引前に全てを把握しているという前提です。

③取引される財の同質性。
 財は同じであり、ブランドやイメージによる差は無い。
 取引費用も無いものとされる前提です。

④フリー・エントリー。
 市場への参入・退出は自由です。
 政府による規制や参入障壁は存在しないという前提です。

市場経済の最大のメリットは、価格メカニズムに導かれて
最適な資源配分が実現されるとされます。
これは、教科書の中にしか存在しないものであり、
現実にはこの機能が発揮されない市場も存在します。

「市場の失敗」の要因としては、以下の5つが代表的に挙げられます。

①規模に関する収穫逓増の存在。
 電気・水道・鉄道など初期投資が大きく、
 規模が大きければ収穫が逓増していく
 産業では独占化していきます(自然独占)。
 このような市場では供給は過少になります。

②外部効果の存在。
 自動車の排気ガスや工場汚水廃水など、
 ある経済主体の経済活動が市場取引を
 経由せず、他の経済主体へ影響を及ぼすことを
 外部効果(外部性)といいます。
 負の外部性がある場合、供給は過大となります。

③公共財の存在。
 国防・消防・警察など、消費の非競合性と
 排除不可能性を持つ財は、公共財と呼ばれます。
 公共財は、市場ではまったく供給されないか、
 過少にしか供給されないという問題があります。

④情報の不完全性(非対称性)。
 取引される財の性質について、売り手と買い手の間の
 情報が不完全、あるいは非対称であるために
 資源配分の効率性が阻害されます。
 中古車の品質についての情報の非対称性による
 市場が不成立になったりするという例が挙げられます。

⑤税・補助金・価格支持政策の存在。
 税金や補助金、家賃の上限規制など価格支持政策は
 価格シグナルを歪め、一つの財に対して
 供給者と受容者が異なるシグナルを受け取ることに
 なり、資源配分を非効率にしてしまいます。

市場の失敗に対し、これを矯正するために政府の介入が
正当化されることになります。
しかし、政府自身が社会全体の資源配分の効率化を目的とする
保証はないからです。
政治家や官僚は自らの私的利益のために行動を歪め、
市場の失敗を矯正するどころか、資源配分をより
非効率にする可能性すらあるためです。

これは、市場の失敗に対し、政府の失敗と呼ばれます。

本日の参考文献はこちら。

コア・テキスト公共経済学 (ライブラリ経済学コア・テキスト&最先端)

コア・テキスト公共経済学 (ライブラリ経済学コア・テキスト&最先端)