すらすら経済学を学ぶ日記。

会計・税務の実務家が経済学をすらすら学ぶ日記。

インボイスは魔法の杖か?

こちらのtweetの意味合いを少々解説いたします。


日本の消費税法は、欧州諸国などで広く行われてる付加価値税(VAT)と同様、製造-卸売-小売と財が流通していく中で、売上で受領した税額からその前段階の仕入税額を控除し、その差額だけを納付するという仕組になっています。
この差額が付加価値とよばれるものであるため、付加価値税とも総称されるわけです。

付加価値税は広く行われており、主要国でこの仕組みの税が無いのは米国のみであります。
なかでも、先進国クラブともいわれるOECD諸国で実施されている付加価値税について、日本以外の国は前述の前段階税額控除に際し、インボイス(税額票)を利用しています。
インボイスがなければ前段階税額控除が行えません。これが付加価値税が取引を連鎖させることによって脱税を防止する仕組になっているとも言われるゆえんです。

そして、インボイスを発行できるのは納税義務がある事業者(個人事業者・法人)のみであり、これは税務当局への登録が義務付けられ、インボイスにはその登録番号の記載が義務付けらたりもしております。
インボイス制度の場合、一般の消費者や、零細な免税事業者はそもそもインボイスを発行することができません。つまり、一般消費者や免税事業者から仕入れた場合は、前段階の税額控除を行うことができないわけです。


これに対し、日本は同様の前段階税額控除の仕組みを取りながら、税務当局への登録義務も無く、そもそもインボイスは不要で、「帳簿及び請求書」を保存することで税額控除が可能となります。
そして、インボイス制度との最大の相違点は、相手が一般消費者や免税事業者であっても税額控除ができることです。
これは、実際には支払っていない仕入税額を控除できることで、国庫税収の脱落をもたらしますが、消費税導入への激しい国民の反対をやわらげるために考え出され日本独特の制度であります。*1


インボイス制度は、これを通じた税務当局による所得の正確な把握をおそれた自営業者から激しい反発を受けました。
昨今、食料品への軽減税率導入や、脱税防止のためにインボイス制度が再び議論の俎上に上がっています。
インボイス制度が導入された場合、課税売上高1,000万円未満の免税事業者はインボイスを発行できないために取引から排除されてしまうおそれがあります。
前述の税収の脱漏と、この免税事業者の取引排除、こちらを比較考量した論考は見かけません。


税法は、国民経済についての正確な資料に基づいて審議されなければならない、と聞きます。
とかく消費税は感情的な議論に落ち込みがちですが、事実に基づいた正確な審議を望みたいと思います。

竹下首相(当時)が消費税導入までの経緯をまとめさせた貴重な資料はこちら。

消費税制度成立の沿革

消費税制度成立の沿革

*1:中曽根内閣で法案提出された「売上税」はインボイス方式でした。なお、大平内閣の「一般消費税」は帳簿方式。